インクルーシブ・メディア Encouraging Inclusivity in Media -メディアによる包摂と排除-

ノート|04

監視か、見守りか 認知症の人を見守るメディアとは 安心して外出(徘徊)できる地域社会をつくるために

松浦 さと子

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コミュニティFMでまちが受け止める「徘徊(外出)」

日本に300局以上もあるコミュニティFM局。その一部では認知症についての番組を始めています。愛媛県の今治コミュニティ放送[20](ラヂオバリバリ)が、JA越智今治の提供で2016年秋に放送した2時間特別番組 「地元ブラブラ徘徊プラプラVOL2 認知症の人たちと地域の人の新しいつながり」を聞かせていただきました。「おひとりさま外出」を地域でゆるやかに見守ろうという主旨の番組です。のんびりしているようで実は「今治市でも65歳以上の10人に1.2人以上が認知症、他人事ではない」という危機感もあり、自分自身も認知症になることを前提にと呼びかけます。語り手は、大学教授の真鍋誠子さん、「せいこちゃん」の愛称で介護についてのレギュラー番組を持っています。そして地域包括支援センターの保健師、23年間認知症介護をされた「朝倉くちの会」の介護当事者の方、JA生活福祉課職員、そして司会パーソナリティと女性ばかり合計5名。冒頭の行方不明情報を書き起こします。こんなに詳細に丁寧に優しく伝えておられ、語りに味わいもあることから、そのまま文字起こしでご紹介します。

「見かけたらぜひ情報を欲しいというお知らせが入っております。11月13日、先週の金曜日から行方不明になっていらっしゃいます、●●●(実名)ひろあきさん、男性、74歳●●町(実際の町名)にお住まいです。11月13日、先週の金曜日の午前2時半ころに散歩に行くと言って外出してから戻っていないそうです。ご自宅からの外出ということですね」「行方不明のときの服装は、黄色のナイロンパーカー、緑色のフードが出ています、グレーのジャージ、黒いスニーカーを履いています。小さめの懐中電灯、お財布も持っています。数千円と小銭ということです。認知症の疑いがあるということで、お名前とご住所は言えるそうですけれども、切符などを買うのは難しいんじゃないかということです。168センチで白髪の短髪、顔は浅黒く総入れ歯で頬がコケています、老眼鏡をかけていらっしゃいます。もし、あら、この人かしら、という情報がありましたら、今治警察署生活安全課 電話●●まで情報をお寄せください」

プライバシー情報をここまで放送で伝えるのは、ご家族が地域社会に信頼をおいていなければできないことでしょう。よびかけのあとのトークも緊急情報でありながらどこか温かい雰囲気です。

「雨が降ったりしてますからどこかに避難してくださっていたらいいですけど、遠くには行っていらっしゃらないと思いますので、黄色のパーカー、必ずどっかで見てあげてください。帽子は脱いでるかもしれませんね」

「心配ですね、先生がおっしゃるように雨も降ってますし、朝晩は寒いですしね。小澤さんもご自身のご家族が徘徊などをされて探しに行ったりされていたそうですが、どんなところにいらっしゃいましたか」

「父親が家を出ていったという電話があったら、家の回りの、ちっちゃな、こんなところに入れるかという『井手』に座り込んでいたり、あるとき笑ったのは里芋の葉っぱのしたに屈んでいたり、ずいぶん近くにいたりしました。お墓とか、自分のうちの畑、田んぼ、若い時に通って作業していたところ、あと家の前の氏神さんのあるところに行ってた、だから限られてました、ある程度は自分がよく行ってた、とか用事で行ってたところにいたり、意外にものすごく近くにいることも多いんですかね 盲点になっているところがあるかもしれませんね(中略)是非情報をお寄せいただけたら、と思います。」

心配して探している家族に向けて語りかけているだけでなく、同様の立場に立ったら、家族はどうすればいいのかのヒントも提供している点が大切だと思います。

「あの方かなあと思ったときはどういうふうに声をかけたらいいですか?」「 そういうときには寄っていってですね、うしろから声かけるんじゃなくて前に回って 偶然すれ違うような形でですね『どこかに行かれますか、なんかお手伝いしましょうか』というふうに言ってくださったら、(中略)で、行くとこわかりませんというたときには、警察へ電話してもらったらいいですんですけどね。家の電話番号がわかればそこに電話してあげると、いうふうなことでかならず前に回って、そこでゆっくりと、どこにお出かけですかと聞いてあげてください。」

そして、「今からネット」行方不明者の早期発見情報登録システムを紹介します。

「(登録を行ったら)担当職員がご自宅に伺いまして、高齢者の方の基本的な情報、お名前とかご住所などを伺い、認知症の程度、背格好などの特徴、こちらが結構キーポイントになるかと思いますが聞き取り、お写真も了承いただけたら撮るようになっています」

「実際に行方不明が発生したときにどうするか まずご家族さんが行方不明になったと思われたら警察署に届けていただくのですが、時間がかかればそれだけ移動範囲も広くなって、夕方から夜にかけてはみつけにくい時間帯になってしまいますので、迷わずに早めに届け出をしてもらったら、と思います。市内170箇所、具体的には医療機関や介護事業所、公共の交通機関、タクシー会社や金融機関や薬局や保険会社など、さまざまなところが協力機関になっていまして、情報提供をするようになってます。情報提供したいろんなひとの目でその方の特徴をしっかり把握してもらってるので、探せるというシステムになっています」

認知症の方への「どこいくん?」という声かけ、その地方都市独特の方言によるコミュニケーションが「見守り」になっています。プライバシーをシェアすることが、徘徊(おひとりさま外出)する高齢者の命綱になることがあるのでした。

この特別番組を企画したのはまだ介護経験のない若手の企画スタッフ宇佐美浩子さんです。「自分の中でも、母親が祖母に強く言ってしまうのを見ながら、見方を変えれば、お互いこんなしんどい思いはしなくていいのに、と思っていたことが起点かもしれません」この企画を見守るラヂオバリバリ代表取締役の黒田周子さんは、主婦の立場でコミュニティ放送を立ち上げました。生活者、とくに女性の放送への参加が、ここ今治コミュニティ放送の存在意義だと思われます。帰れなくなった「(外出」おひとりさま」を放送エリアのなかで見つけ出し、緊急性に対応しつつ優しさのこもったラジオ番組という情報は、認知症と地域の新しい関係構築を実践しようとしています。

ラヂオバリバリ(今治コミュニティ放送)企画担当 宇佐美浩子さん
ラヂオバリバリ(今治コミュニティ放送)を立ち上げた黒田周子さん

最後に ―「見守り」でも「監視」でもなく、

KAIGO LAB編集長の酒井穣さんは、20年以上の介護経験から「見守り」と「監視」の違いについて次のように述べています[21]。「見守り」は、気をつけて見ること。特に子どもや高齢者に対し、安全な状態にあるかどうかについて注意をはらうことであり、「監視」は警戒して見張ること。また、その人。そして、見守られるのはうれしいが、監視されるのは嫌なものだといいます。

「見られる側が、それによって安心できれば『見守り』であり、それを不快に思えば『監視』」「いかに、見る側に善意があったとしても、相手がそれを不快に思うなら、行き過ぎの『監視』」「現実として考えると、何も事件がおきないならプライバシーを重視したいし、事件がおきたときはプライバシーなど無視してほしいというのが人間らしい欲求です。勝手なものですが、人間は、自分に何かの危険あったとき『だけ』都合良く誰かに見ていて欲しいのです。」

プライバシーを守りながらコミュニティFMやケーブル放送局など地域のメディアを使って声かけができる地域も増えてきました。

たとえば京都コミュニティ放送。介護は女性だけの領域ではありません。京都コミュニティ放送で、介護番組を放送するのは介護士の男性。番組名は「行列の出来る訪問看護ステーション[22]」。訪問看護の魅力を、訪問看護師の鎌田智広さんと利用者が一緒に伝える日本初の訪問看護専門ラジオ番組だそうです。こうした番組が地域社会に増えていくことで介護の領域が地域に開かれていくように思えます。性を問わず、ケアするまなざしが地域社会に増えていくことは、歓迎すべきことではないでしょうか。

カメラが何台あろうとも、かつてのコミュニティにあったお互いを見守る人々の眼差しが、祭りや市場、公園や通りにあり続けてほしいとあらためて思います。2018年、講習を受けた「認知症サポーター」 [23]が全国で1000万人を超えようとしています。そうした人々がスマートフォンだけでなく、地域社会に行き交う人々に眼差しを注いでくださるように。そこに暮らす人々が互いに見守り合い「まなざしの相互扶助」が失われませんように。

高度な専門性と人道的な配慮をもって、お年寄りの外出を受け止める地域の力を、私たちは今後どのように培ってゆけるでしょうか。カメラが無くても、街を歩く人々がお互いに「おひとりさま外出」を楽しんでいる20XX年の社会であってほしいものです。

参考文献

  • 「徘徊」使いません 当事者の声踏まえ、見直しの動き 編集委員・清川卓史 朝日新聞2018年3月24日21時39分
    https://digital.asahi.com/articles/ASL3N6H64L3NULZU015.html
  • 檜垣立哉2017「監視社会と生権力」日本社会学会理論応用事典刊行委員会(編)『社会学理論応用事典』丸善出版.p.72-77
  • Foucault, Michel, 1975,Naissance de la prison, Surveiller et punir,『監獄の誕生 監視と処罰』,田村俶訳,新潮社,1977
  • Lyon, David,2001 surveillance society: Monitoring everyday life, Open University Press,2001.『監視社会』、河村一郎訳、青土社、2002 p.7-28
  • Lyon, David, with Bauman, Zygmunt,2013 Liquid surveillance: a conversation, Polity.『私たちが、すすんで監視し、監視される、この世界について――リキッド・サーベイランスをめぐる7章』,伊藤茂訳,青土社,2013年
  • エドワード・スノーデン,青木理,井桁大介,金昌浩,2017『スノーデン 日本への警告』集英社新書
  • スノーデンの警告2016.08.22「僕は日本のみなさんを本気で心配しています」
    http://gendai.ismedia.jp/articles/-/49507
  • 猿渡進平2016「徘徊が“ノー”ではなく、安心して徘徊できる街づくり」『神経治療』33:439.